08/12/26 コーンポタージュダイエット
非言語コミュニケーションの分類の一つにプロクセミックスというものがある。これは空間を用いた非言語コミュニケーションで、例えば、飲食店の前に長蛇の列が出来ている場合、我々は「この店の料理はきっと美味しいのだろう」といった推測をするが、これはつまり、「飲食店の前に長蛇の列が存在する」という空間情報から「その店の料理は美味しい」というメッセージを受け取っているわけである。
こうした非言語コミュニケーションは我々のごく身近に存在しており、知らず影響を受けているわけである。
さて、僕がよく利用するコンビニには、レジの横に「中華まんボックス」と「あったか～い飲み物ボックス」が並列して設置されている。中華まんの誘惑は強烈だが、健康志向の僕は頭を振って「あったか～い飲み物ボックス」に手を伸ばす。 手を伸ばしたはいいものの、缶コーヒー（ブラック）に120円を支払うには相当の勇気が必要だし、おしるこは飲めない。極端に小型デフォルメされたペットボトルのお茶はなぜか140円くらいして、顔に縦線が入る。
あれこれ迷っていると、いよいよ中華まんが横目にちらつきはじめる。そしてついに目線は中華まんに釘付けとなる。僕には、レジ横に鎮座する中華まんが店内の誰よりも（店員よりも）メッセージを放っているように思われる。「そこに中華まんが存在する」という空間情報によって我々は何らかのメッセージを受け取っているはずで、しかもそのメッセージが強烈であるから我々は中華まんを購入してしまうのだろう。
しかし、コミュニケーション不全の僕は、中華まんに目線を残したまま、結局隣りのケースで温められた缶入りコーンポタージュに手を伸ばすのである。理想的なノー ルック コーンポタージュだ。
食事は低カロリーのほうが身体を若く保ち、かつ寿命が延びる、ということが動物実験によって実証されている。一般的な肉まんが約240キロカロリーあるのに対して、コーンポタージュは約70キロカロリーであるからコーンポタージュのほうが健康的であるといえるだろう。しかも、缶入りの温かい飲み物は、右手と左手の間でキャッチボールすることによってカイロ的な役割を果たすため、中華まんよりも勝っている。と自分に言い聞かせることで、コーンポタージュのほうが中華まんよりも値段が高かったという事実には目をつむるべき。
ところで、落とした１円を拾う動作に、1円で得られる以上のカロリーを消費しているという話を耳にしたことがある。缶底のコーンをどうにかして喰おうとしているとき、そのコーンで得られるよりも多くのカロリーを消費していると思うのだがどうだろうか。
08/12/18 時間の耐えられない重さ
僕が俗世間と揉み合っている間にこのサイトは開設3周年を迎えていたようだ。いつの間にこんなに時間が経ったのか。いつの間に僕は長袖シャツの上にセーターを着て、寒さ対策万全なのか。
一昨日の真夜中、下の絵を描いた後に小腹が空いたため、わが陋屋をそろりと出て近所のコンビニエンスストアに向かった。外は寒い。万全ではなかったのか。
さて、マンションを出て200メートルほど歩いたところに背の低いビルがある。その一階にあった学習塾が夏頃になくなって、二ヶ月程前に新たなテナントとしてセブンイレブンが店を構えた。しかし、そのようなことは今は関係ない。100メートル手前にローソンがある。
買うものを胸中で反芻しながらコンビニまでの道程を歩くが、いざ入店すると陳列された数々の商品に目を奪われ、そのうちに、はて何を購入する予定だったっけ？ というような健忘、混乱、パニックなどの症状に見舞われる。結局、雑誌コーナーで地域情報誌などをパラパラとめくる羽目になり、「立ち飲み居酒屋」という文字列を見て眉がハの字になる。つまり、「居」という字の原初的な意味は「座っていること」だったはずなので、「立」と「居」が一つの言葉の中に同時に存在している「立ち飲み居酒屋」に対してダブルバインド的な何かを感じ取ってしまった結果の「眉がハの字」である。
（あとで調べたところによると、江戸時代に酒屋で居続けて飲むことを「居酒（いざけ）」と言ったことから「居酒屋」という言葉が生まれたようだ）
眉を手動で戻しつつ当初の目的を思い出して、菓子パンをいくつか手に取りレジに向かう。すると、レジ横のガラスケースへの接近を余儀なくされる。つまり、45cm以内の親密距離に相手（中華まん）を迎えるわけである。この距離は家族や恋人に許す距離と同じであることから、人は親密距離の相手（中華まん）に対して同調傾向が生じるということも容易に想像できる。同調とはすなわち同化であり、相手（中華まん）の要素を自分の中に取り入れることである。よって、コンビニのレジ横の中華まんを欲することは人としてむしろ健全といえる。というような言い分けによって人間は堕落していく。僕は負けない！
